東京地方裁判所 昭和45年(ワ)10876号 判決 1972年4月26日
原告
柴田しん
外七名
代理人
竹下甫
根本隆
被告
東武急行運輪株式会社
柴田稔
被告
高橋義広
代理人
横堀晃夫
主文
被告らは連帯して原告柴田しんに対し金六一万六、一五一円、原告柴田博信、同柴田恭子、同柴田忠生、同柴田暢子、同柴田絢子、同柴田徹也、同柴田和美に対し各金一八万三、七五九円ずつ、およびこれらに対する各昭和四五年三月四日以降支払い済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。
原告らの被告らに対するその余の各請求をいずれも棄却する。
訴訟費用はこれを五分し、その四を原告らの、その余を被告らの、各負担とする。
この判決第一項は、かりに執行することができる。
事実
第一 請求の趣旨
一 被告らは連帯して原告柴田しんに対し金三三三万七、三二三円、その余の原告らに対し、各金九五万三、五二一円ずつ、およびこれらに対するいずれも昭和四五年三月四日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。
二 訴訟費用は被告らの負担とする。
との判決および仮執行の宣言を求める。
第二 請求の趣旨に対する答弁
一 原告らの請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
との判決を求める。
第三 請求の原因
一 (事故の発生)
訴外亡柴田順次(以下亡順次という)は、次の交通事故によつて死亡した。
なお、この際亡順次はその所有していた後記被害車を損壊された。
(一) 発生時 昭和四五年三月四日年前六時五五分頃
(二) 発生地 神奈川県川崎市戸手町一丁目八二番地
(三) 加害車 大型貨物自動車(群一に三、八七九号)
運転者 被告高橋義広(以下被告高橋という)
(四) 被害車 普通貨物自動車(品川四に五、六七〇号)
運転者兼被害者 訴外亡順次
(五) 態様 交差点内を青信号に従い進行中の被害車の側面に、赤信号を無視して進行してきた加害車の前部が衝突したもの。
(六) 被害者である亡順次は昭和四五年三月四日午前七時五七分、本件事故で受けた頭部外傷、脳挫傷等のため、死亡した。
二 (責任原因)
被告らは、それぞれ次の理由により、本件事故により生じた相当の損害を賠償する責任がある。
(一) 被告東武急行運輸株式会社(以下被告会社という)は加害車をその業務である貨物自動車運送事業のために使用し、これを自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法三条による責任を負う。
(二) 仮りにそうでないとしても、被告会社は、被告高橋を自動車運転手として使用し、同人が被告会社の業務を執行中、後記のような過失によつて本件事故を発生させたのであるから、民法七一五条一項による責任を負う。
(三) 被告高橋は、事故発生につき、自己の運転する加害車に対する信号機が赤色の止まれの信号を表示していたのに、これに気付かず、交差点手前で停止すべき措置を怠つた過失があつたから、不法行為者として民法七〇九条の責任を負う。
三 (損害)
(一) 葬儀費等
原告らは、訴外亡順次の事故死に伴い、その葬儀をとり行ない、これに伴ない金三七万五、〇一〇円の出捐を余儀なくされ、これを、それぞれその相続分に応じ負担するに至つた。
(二) 被害者に生じた損害
(1) 訴外順次が死亡によつて喪失した得べかりし利益は、次のとおり金一、〇〇一万一、九七一円と算定される。
(死亡時) 満六七歳
(推定余命) 一〇年
(稼働可能年数)5.3年
(収益)(イ) 訴外柴田製菓株式会社代表取締役としての収入一カ月当り金一六万一、一八四円(ロ) 東京都より恩給年間金三三万六、四八〇円
(控除すべき生活費) 一カ月当り金一万五、〇〇〇円
(純利益)(イ) 代表取締役としての純収益金一四万六、一八四円(ロ) 恩給支給額より遺族である原告らに支給される五割相当分控除後の金一六万八、二四〇円
(年五分の中間利息控除後の現在価値額)(イ) 代表取締役としての収入分金九〇〇万六、一〇三円(ロ) 恩給関係分金一三三万六、六六六円
(2) 亡順次が事故時所有していた被害車は、本件事故のため、完全に損壊し、その価値をまつたく失うに至つた。右被害車の事故時の価額は金二九万四、一九二円であつたので、亡順次はこれと同額の損害を蒙つたことになる。
(3) 原告らは右訴外人の相続人の全部である。よつて、原告柴田しんはその生存配偶者として、その余の原告らは、いずれも子として、それぞれ相続分に応じ右訴外人の賠償請求権を相続した。その額は、
原告柴田しんにおいて金三四三万五、三八八円
その余の原告らにおいて各金九八万一、五三九円ずつである。
(三) 原告の慰藉料
原告らは、訴外柴田製菓株式会社の実質上の個人経営者である亡順次を喪い、遂に昭和四五年五月三一日をもつて右会社の事業を閉鎖するのやむなきに至つており、そのほか、夫であり父である亡順次を突然の事故で失つた打撃は極めて大きい。
その精神的損害を慰藉するためには、
原告しんに対し金一三三万三、三三三円、その余の原告らに対し各金三八万〇、九五二円づつが相当である。
(四) 損害の填補
原告らは本件事故について、既に自賠責保険金五〇〇万円をそれぞれその各相続分に応じ受領し、これを、遅延損害金以外の本訴損害金内金に充当した。
四(結論)
よつて、被告らに対し、右各損害金合計金として、原告しんは金三三三万七、三二三円、その余の原告らは、各金九五万三、五二一円づつ、およびこれらに対する事故発生の日である昭和四五年三月四日以後支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の連帯しての支払いを求める。
第四 被告らの事実主張
一(請求原因に対する認否)
第一項中(一)ないし(四)ならびに(六)は認める。(五)のうち、本件事故が交差点内で、被害車の側面に加害車の前部が衝突したものであることは認めるが、その余は否認する。
第二項中、被告会社が、原告ら主張のとおり、運行供用者および使用者の地位にあることは認めるが、その余の事実は、被告らにそれぞれ損害賠償責任があるとの主張を含め、否認する。
第三項中、(四)の事実、ならびに、原告しんは亡順次の生存配偶者、その余の原告らは亡順次の子であることは認めるが、亡順次の一カ月当り収入が金一六万一、一八四円で、生活費が金一万五、〇〇〇円であること、および稼働可能年数が5.3年、指定余命が一〇年である事実は、いずれも否認し、その余の事実はすべて知らない。
第四項争う。
二(抗弁)
(1) 免責の抗弁
本件事故は亡順次の一方的な過失により発生しているものである。加害車の運転手被告高橋は、本件事故発生交差点に青色信号を確認のうえ進入しようと進行してきたところ、交差点手前の横断歩道のさらに0.5米前の地点で、信号が青より黄色にかわるのを認めた。しかし、右地点で停車の措置をとると、かえつて交差点内で停車するほかなくなり、それより信号が黄色表示中に交差点を通過するのが、交通の渋滞を招かないものと考え、進行し続け、なお信号が黄色表示中であるままの時点で、被害車が赤信号を、まもなく青とかわるものと見越し、進行してきたことを認めたものの、信頼を裏切る被害車の進入に有効な措置をとりえず、衝突に至つている。かように本件事故発生について被告高橋には運転上の過失はなく、事故発生はひとえに被害者亡順次の過失によるものである。また、被告会社には運行供用者としての過失はなかつたし、加害車には構造の欠陥も機能の障害もなかつたのであるから、被告会社は自賠法三条但書により免責される。
(2) 過失相殺の抗弁
かりに然らずとするも事故発生については右のとおり被害者亡順次の過失も寄与しているのであるから、被告らの負う賠償額算定につき、これを斟酌すべきである。
(3) 損害填補の抗弁
なお、被告らは、原告らに対し、自陳の自賠責保険金のほか、なお本訴提起前金三万九、四五〇円を原告らの相続分に応じ遅延損害金以外の損害金に充てる意思で、支払つているので、右額は控除されるべきである。
第五 抗弁事実に対する原告らの認否
(3)の抗弁のうち、金三万九、四五〇円の相続分に応じて遅延損害金以外の損害に充てる意思で支払われたことは認めるが、右は亡順次の治療費担当損害金に充当されるべきものである。その余の抗弁は否認する。
第六 証拠関係<略>
理由
一(事故の態様と責任の帰属)
原告ら主張請求の原因第一項(一)ないし(四)および(六)の事実は当事者間に争いない。しかし、被告らは、本件事故について損害賠償責任の帰属を争い免責・無過失そして過失相殺の主張をなすので、まず、本件事故態様について検討する。
<証拠>に弁論の全趣旨をあわせると次のような事実が認められる。
本件事故は、南方の横浜方面より北方の東京方面に通じる車道幅員一九米のアスファルト舗装南北道路の国道一号線とこれにほぼ九〇度の角度で交差する東西にはしる車道幅員一五米のアスファルト舗装東西道路の神奈川県との、交差点内で発生した。右交差点は信号機によつて交通整理がなされている。被告高橋は、加害車を運転し、神奈川県道を東進し、本件交差点に至つたのであるが、その際、右交差点手前約四〇米の地点で、対面する信号機が、青色より黄色に変わるのを認めた。ところが同被告は、折柄の降雪と、早朝であるという時間の関係上、右交差点の交通量が比較的閑散としていたことと、黄色信号認知点が交差点に比較的近かつたこととから、若干速度を上げ進行すれば、交差点を、対面信号が黄色表示中に通過しうるであろうし、かりに途中で赤色となつても、側方より交差点に進入する車は多くないであろうから衝突迄に至ることはあるまいと考え、折柄の降雪のため、運転席ガラス窓側方はくもり、視界は不充分という悪条件下にあつたことをも顧慮せず、かえつてそれまでの、既に制限速度五〇粁を五粁こえる毎時五五粁の速度で進行中の加害車の速度を若干加速気味にして、交差点内に進入後も側面の人車の動静に対する注意も不充分なまま交差点に進入・進行し、さらに、右黄色信号が約四秒間という表示時間を終り、赤色となつたのを、交差点進入後約19.30米の距離を進行しての地点でみてもなお、交差点の通過のみを念頭におき進行し続けようとし、なんら減速等の手段をとることがなかつたため、赤色信号をみた直後、被害車が、国道を東京方面より横浜方面に南進し、対面の信号が赤色より青色信号に変わつたのをみてとつて直ちに交差点内に進入してきているのを発見しても、なんら有効な措置をとることができず、わずかに右にハンドルを切つて衝突を避けようとしたものの、及ばず、急ブレーキも効なく、加害車前部を、被害車右側面に衝突させるに至つている。他方亡順次は、国道を時速約四〇粁で進行してきて、対面信号機が青色に変わつたのを認め、交差点に進入したのであるが、その際、すでに交差点に進入していた加害車を、降雪などによるガラス窓の曇りのため、適確に把握できず、対面の信号が青であることに安堵感をもちすぎ、進行していたため、本件事故に遭遇するに至つている(右のうち、本件事故が、交差点内におけるもので、かつ、被害車の側面に加害車前部が衝突したものであること、は当事者間に争いない)。
<証拠判断略>。
右認定事実によると、加害車を運転していた被告高橋は、本件事故につき、自動車運転手として遵守すべき、進路前方の安全を確認しつつ、安全な運転方法をもつて進行すべきであり、対面する信号機の表示する信号に従わなくてはならない注意義務を、折柄交通量の比較的閑散としていたことと、黄色信号に表示が変わつたのを、交差点に比較的近い地点で認識したことから、黄色信号中に交差点が通過できるか、さもなくとも、側方よりの車は少ないので、衝突に迄至ることはないものと、軽率にも判断し、漫然、それまでの速度をさらに加速気味に、しかも側方への安全を怠つて交差点に進入するという過失を犯し、そのため本件事故を惹起しているのであるから、本件事故につき、不法行為者として損害賠償責任を負わなくてはならない。
また、原告ら主張のとおり、運行供用者の地位にあることを争わない被告会社は、運転手たる被告高橋に前記のとおり過失が認められる以上、免責される余地なく、本件事故につき運行供用者として損害賠償責任を負わなくてはならない。
しかし他方被害者である亡順次も、本件事故発生について自動車運転手として、守るべき注意をすべて尽くしたものといえるか否か、考えると、交差点に進入するに当つては、とくに、対面の信号が異なる表示に変わつた瞬間は、それ迄の信号に従い進行中であつた人車が直ちにこれに対応しえず、それ迄の進行状態を引き続き維持し、交差点内が危険な状況となることがあるのであるから、信号のいわゆる変り目には、とくに、側方に対する注意をも払い、単に対面の信号にのみ注意を向けるのみでは、完全な安全確認をつくしたとはいえないところ、前記認定事実によると、本件交差点に進入するに当つて、右前方に対する注意に欠け、既に交差点内を進行中の加害車発見に遅れるところがあるといえ、そして右過失が本件事故発生に寄与していることも明らかであるので、本件事故における被害者の右過失を斟酌することとし、右過失内容を検討すると被告らは原告らに対し相当の損害額のうち九〇%に当る金員を賠償すべきものと判断される。
二(損害)
(一)(葬儀関係費用)
原告柴田しんは、亡順次の生存配偶者であり、その余の原告らは亡順次の子であることは、当事者間に争いなく、
<証拠>、弁論の全趣旨によると、原告らは、実質的には個人企業である訴外柴田製菓株式会社の代表者であつた亡順次の事故死に伴ない、その葬儀を行ない葬儀社への支払、布施料、埋葬に必要な書類作成費、あるいは、参列者接待費、さらには参列者への交付物品代、来客用の石油ストーブ購入費などとして、合計金三七万三、五六〇円の出費を余儀なくされ、原告らはこれをその相続分に応じ負担するに至つていることが認められ、右認定に反する証拠はない。しかし、右のうち、参列者への交付物品代は訴外人の死亡に伴なつて当然負担せざるをえなくなるものではなく、また、石油ストープ代のうち葬儀後の残存価値分も、事故相当因果関係を有する損害とみることはできないし、その余の諸費用についても、金二五万円をこえる部分については、前認定の訴外人および原告らの社会的地位・身分関係、また事故と現実出費時の時間的間隔よりして、社会通念上考えられる訴外人の事故死に伴なう葬儀費用としては、相当の範囲をこえるものとみざるをえず従つて右部分は本件事故と相当因果関係をもつ損害とは認め難い。
従つて葬儀費のうち金二五万円が本件事故による損害であり、これの原告らの各法定相続分に応じ按分した各金額が原告らの蒙つた相当の損害とみるのが正当である。
(二)(亡順次につき生じた損害)
(1)(逸失利益)
(イ) <証拠>、弁論の全趣旨によると、次のような事実が認められる。亡順次は明治三五年一一月二八日生の健康な男性で、事故当時、訴外柴田製菓株式会社の代表取締役として、同社より年間八四万円の給与を受けるものとされていた。しかし、右会社は、単に税理上法人化したものにすぎず、その実質は、亡順次が原告博信、同忠生を指揮監督し、右会社の営業たる製菓とその販売の処理を殆んど一手に握り、その営業による利益も原告博信の一カ月当り金七万円、同忠生の金二万五、〇〇〇円という人件費、あるいは臨時に雇用するパート・タイマーの賃金、材料費、製菓用器具、運搬用自動車の償却費電気ガス等光熱費等の経費をさらにその実態に添い本来その義務を尽くし、手中にしえない租税該当分を控除した後の残純益として少なくとも考えられる金額一〇万円全額を、原告が資金として受領し、会社としての収益は常に零となる実態であつたのであり、これについて、会社の機関はもとより債権者からも、その実態を肯定されていた故に、なんらの異議もなく容認されてきていたのである。亡順次は右の収益のほか、かつ公務員としての生活を送つたことがある関係上毎年東京都より税控除後の金額で年間金三〇万八、八八〇円の恩給を受け妻のほか、離婚し実家にその二人の子とともに戻つた二女暢子らを扶養していたところ、本件事故により死亡したため、遺族に対し、その半額が支給されるにとどまることになつた。
以上のような事実が認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。
(ロ) いわゆる個人会社とはいつても、別個独立の権利能力主体としての形態をとる以上、その責任の面以外の点までも一律に法人格は否認さるべきではなく、個人会社の故にその個人と法人の権利取得が同一時点で生じるなどとは考えるべきではないけれども、右認定のような賃金として個人が会社よりすべてを取得することは、たとえ賃金額が確定的でなくとも、労働契約を無効ならしめることなく、また会社として法定の利益準備金の積立等がなされていなくとも、個人会社の個人が責任を負う故に、損害額等の算定に当り、一部の金額を保護に値しないものとなすことなく、結局個人の稼働能力を金銭にて評価するとき、右金額をもつてその相当額とるみることができるものというべきである。従つて、右認定事実よりすると、亡順次は、本件事故時一カ月当り金一〇万円の稼働による収益能力を有していたものと評価することができる。
(ハ) 公務員に対する恩給は、事故時被害者の有していた労働能力を評価するものではないが、事故なくば取得しうべかりしところを失つた事由が認定されるときはこれを事故により蒙つた損害とすることには一応妨げはない。しかし恩給は公務員たりし者の生活維持の性格をもち、これは、公務員本人のみでなく、その家族の生活維持の面をも持つとはいうものの、本件で原告らが述べ、そして恩給法七五条一号で定められるとおり、それ迄の給付の二分の一がなお支給されるものであるから、支給されないこととなつた分は死亡者自身の生活維持分と解すべきであり、従つて、このうち、稼働可能期間中のものは、収益に対する生活費控除額を低減させる機能をもつが、稼働期間後は、すべて、死亡者の生活費となるとみるべきで、右が労働能力生産に益しない故に、これを差引くことを許さないとするのは、恩給を労働能力に対する評価とみることに立脚する論にして始めて許されるものであるにすぎないので、これを逸失した利益とすることは結局できず、損害と評価しうるか否かという、抗弁ともなりえない段階で、損害としての法的構成をなしえない右恩給不支給分の賠償請求は許容することができない。
(ニ) そうすると、亡順次は、右恩給のほか、その月当り金一〇万円の収益の二五%を生活のため費しつつ、なお事故後四年間稼働しつづけることができたものと考えられ、これが事故時現在価額を月別複式ライプニッツ式で算出すると、次のとおり金三二六万三、七七九円(円未満五〇銭以上切上げ方式による)となる。これが亡順次の逸失利益である。10万円×0.75×12.2725×3.5459=326万3,779円
(2)(物損)
<証拠>弁論の全趣旨によると、亡順次が事故当時所有し、それ迄新車として購入し、一年あまり業務用として使用していた被害車マツダ四三年式ライトバンは、大破し、車として修理使用することは経済的には不能となつたこと、破損した車はスクラップ価値のみが残存したことが認められ、右認定に反する証拠はないところ、右認定事実によると、被害車の事故時の時価よリスクラップ代価を控除した金額は、金二〇万円を下ることはないといえるので、これを亡順次は被害車の損壊により損失したものといえる。
(3) ところで既に記載のとおり、原告しんは亡順次の生存配偶者で、その余の原告らは子であることは当事者間に争いなく、かつ、<証拠>によると原告らは右訴外人の相続人の全部であり、原告しんはその配偶者として、その余の原告らは、いずれも子として、それぞれ相続分に応じ右訴外人の賠償請求権を相続したことになるところ、その額は原告しんにおいて金一一五万四、五九三円、その余の原告らにおいて各金三二万九、八八四円づつとなる。
(三)(原告らの慰藉料)
前記認定の事故の発生事情、訴外亡順次の社会的地位、身分、原告の相続人としての立場などのほか、本件その他の諸事情を勘案すると、原告らの精神的損害を慰藉するには、原告しんに対しては金一三〇万円、その余の原告らに対しては金三八万円ずつをもつてあてるのが相当である。
三(損害の填補等)
そうすると、本件事故と相当因果関係にある原告しんの損害は金二五三万七、九二六円、その余の原告らの損害は各金七三万三、六九四円となるところ、既に認定の被害者の過失の斟酌割合に従うと被告らは原告らに対し、相当の損害額たる前示各金員九〇%、即ち原告しんに対しては金二二八万四、一三三円、その余の原告らに対しては各金六六万〇、三二五円ずつを賠償すべきものとなる。
ところで、原告らは、本件事故による損害に関し、既に自賠責保険金五〇〇万円、被告らよりの弁済金三万九、四五〇円の支払を受けこれを両当事者の合意で遅延損害金以外の債権に充当したことは当事者間に争いないところであるので、このうち、弁論の全趣旨により認められる本訴請求外の本件事故損害賠償債権である治療費金三万九、四五〇円の九〇%相当の賠償分に充当した残余分金五〇〇万三、九四五円を、原告らの各法定相続分により按分した金額を、前記各賠償金より控除した金六一万六、一五一円が原告しんにおいて、金一八万三、七五九円ずつがその余の各原告らにおいて、被告らに連帯して支払を求めうる金員である。
四(結論)
そうすると、原告しんは金六一万六、一五一円、その余の原告らは各金一八万三、七五九円ずつ、およびこれらに対するいずれも、事故発生の日である昭和四五年三月四日より各支払済み迄年五分の割合による民法所定遅延損害金の連帯しての支払を被告らに求めうるので、原告らの本訴各請求を右限度で各認容し、その余は理由なく失当としていずれも棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九二条本文、九三条一項を、仮執行の宣言について同法一九六条を適用し、主文のとおり判決する。
(谷川克)